変な旅?9

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ザッ・・・




天井に張り付いているスピーカーから電源を入れたような音が聞こえた



放送時間か・・・


間に合わなかったのか・・・



と、思ったが・・・聞こえてきた声は



「テス・・・テス・・・、ただいまマイクのテスト中・・・」





内藤君の声だった


僕は声を聞いた瞬間、床に座り込んでいた

安心した

よかった・・・生きている


「聞こえるか? こちらは順調だ・・・もう少しでこの町は救われる・・・」


内藤君がやけに元気な声で状況を報告してくれた


しかし、何か・・・異変を感じる・・・



どこか痛むのか・・・


やけに元気なその声はどこか痛みを我慢しているような感じだった


「そっちはそっちで頑張ってDJを探してくれい、以上、報告終わり」



そこで、放送が終わるかと思ったが



「さぁ、続いては天使さんからだ・・・」


と、知らない男の声が聞こえた
とたん寒気がした



「内藤さんが言った通り、こちらは順風満帆です。和解も出来ましたよ」

とユカリさんの声が聞こえてきた




「ククク、以上、怪我で動けない二人からの中継でした
  あと2分で放送は始まりますのでもう暫くお待ちください」
と、いやらしい笑い声と共に放送は切られた





僕に芽生えた感情は


恐怖


落胆


絶望



そして、それらでは抑えられない怒りだった




僕は内藤君、ユカリさんの優しさが強さがとても眩しかった



今、出来ること



考えるまでも無い





ドン!


と、ドアを力いっぱい何度も叩いた


目からは涙が溢れていた



「なぁ! 聞こえてんだろ!」


ドアを叩く音と僕の怒声が廊下いっぱいに響く


「放送止めてくれよ! 頼むよ! あんたも人間なんだろ!」


ドアの向こうからは何の反応も無い


「なぁ! 何とか言えよ! 言ってくれよ!」


何の反応も無いことに更に僕の怒りは更に沸いた


「てめぇ! ふざけんなよ! 何様のつもりなんだよ!
 善とか悪とかで人を勝手に裁いてんじゃねぇよ! 人間は悪の一種類じゃねぇだろ!」


何の考えも出来ない
ただ頭に浮かぶ言葉、気持ちをぶつける事しか出来ない


「人間を平均化してんじゃねぇよ! 人間一般で判断してんじゃねぇよ!
 人間一般は悪かも知れねーけどよ、そんなんじゃねぇだろ!
 あんたが今までどんな経験したかはわかんねぇよ、どんな絶望を味わったとかわかんねぇよ!
 でも、あんたの世界だけでこの世の中判断すんじゃねぇよ!」


ドアを叩こうとした瞬間
キシリ・・・と軋む音が聞こえた


とたん、黒いもやが目の前を覆った



何も見えない・・・


体が重い



力が・・・抜けていく



床の冷たさを頬に感じる


たくさんの蛇に体中まとわりつかれた感覚だけがある

なんだよ・・・




なんだよ・・・これ






「邪魔すんじゃねぇよ!」
床をゴンと叩いた



右手が熱い



這いながらドアまで進んだ



目の前は真っ暗なままだが全く関係ない



今、出来ること



それだけをやろうと決めていた




ドン・・・


さっきとは全く違う、力無い音が聞こえる


「なぁ、頼むよ・・・人間一般は悪かもしれないけど・・・それだけじゃないだろ
 僕の周りにはすっごい、馬鹿がつくほど優しい奴や・・・いつも笑わせてくれる奴
 人の喜びが自分の喜びだって言う奴や・・・感動してすぐ泣く奴
 無理だと言っても頑張る馬鹿や・・・精一杯生きてる奴・・・
 それに・・・今、上の階で頑張ってる・・・人間じゃないけどさ・・・素敵な奴がいるんだよ」



もう、ドアを叩く力も無く、ガリリとドアを引っ掻く位しか出来なくなっていた



「・・・お願いだ・・・大切な友達が住むこの世の中を・・・壊さないでくれ・・・」


全身の感覚が麻痺してきた



「・・・ちくしょう・・・・なんだよこれ・・・・力が・・・・」



ドアの前にへたり込んでいるのだろうか・・・

自分の状況が良くわからない



「ほんとの事言うと・・・さ・・・この町、来るつもりなかったんだ・・・
 事故でさ・・・来ちゃったんだけど・・・・・あんまりこの町の事知らないんだ・・・・
 来てすぐ入院しちゃってさ・・・・・だから、この町が好きとか・・・・そんなんじゃないんだ
 巻き込まれた・・・・・って言った方が・・・・適当だな・・・・はは・・・何言ってんだろ・・・
 ・・・・はぁ・・・・でも・・・この町・・・・少し好きになってたんだ・・・・・町の人が明るくてさ
 ・・・・で、あんたの声と・・・・言葉・・・・・結構・・・・・気に入ったん・・・・・・だけどな」




廊下に静寂が走った



ザザ・・・とスピーカーから電源の入る音が聞こえた

『みなさん、最後の放送をはじめます』

僕はいま何をしているんだろう・・・



何か・・・遠くの方で音が聞こえる・・・



キシリ




キシリ




軋んだ音だ・・・



手の先、足の先から聞こえてくるようだ



キシリ




何か身体の中に異変を感じる



身体の中で何かが起きているように感じる







カチリ



何かが噛み合ったような


そんな音が聞こえた




カチリ



カチリ




カチカチカチカチ・・・



音はどんどんと身体の中心に迫ってくる







カチン




音が止むと

左手の小指がピクンと動いた

僕は身体を起こした



思いのほか重くない・・・
むしろ、軽いくらいだ



どれ位の時間が経ったのだろうか・・・


辺りを見回す・・・


もう、全ては終わってしまったのか・・・



ザザ・・・



と、スピーカーからノイズが聞こえた



『いよいよ、時が来ました。ようやく、この町から自由に出ることが出来るようになります』


優しいあの声だ・・・

しかし、彼に言葉をこれ以上言わせるわけにはいかない・・・

この町の荒廃を見ればわかる・・・

やはり、人は理性を失うと悪なのだ・・・


僕はドアを叩いた




・・・





ドアが打撃音と共に勢い良く開いた


何かが違う・・・と思った

思った以上に勢い良く開いたドアは

ゴンッ

と壁にぶち当たった・・・


ああ、壁に傷入っちゃったかなぁ・・・と、この非常時に庶民的な考えをしてしまった


DJの驚いた顔がこちらを向いていた


初めて見たその優しい声の持ち主は、少し疲れた表情をしていた

無精ひげを生やし、すこし暗い影を落としている・・・



ドン

と、後方から大きな音が聞こえ僕はビクッと振り返った



ドアが床に横たわっている・・・



壊しちゃった・・・な・・・と気まずい気持ちになった

苦笑いともつかない顔で僕はDJの方を向き直した


ガラス越しのそのDJは少し苦笑いをし、コクリと頷いた


僕は、要領の得ない顔をしていたのか、DJは親指を上げ


(だいじょうぶです)


と口を動かした



僕はそのDJの顔を見て・・・ああ、大丈夫だ

そう感じた


もう心配することは無い、考え直してくれたんだ・・・そういう雰囲気を感じた


僕は視線を落とし安堵のため息を吐き


よかった・・・と呟いた


通じた・・・僕にもできた・・・こんな僕にも・・・よかった、間に合った



DJを見ると

DJは指を天井に向けた


僕は頷き、部屋を出た



今行くよ・・・みんな

廊下を走る


なんだか体が軽い



軽快に階段を上がる



内藤君、ユカリさん、もう終わらせよう



だから・・・無事でいて・・・





七階を過ぎ八階に向かう




なぜだか怖くない


いよいよ大詰めっぽいが怖いと感じない


ゴールといった感じに近い




八階には扉が一つしかない




局長室・・・



僕は


これで最後


と呟き


ドアノブを回した



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