lluviaさんリク



「なぁ、書けたか?」

「いや・・・ まだ」

「なにやってんだよ、早く書けよ!」

僕の向かいに座っているコウジが三国志11巻を片手に小さな声で怒鳴る。



図書館で国語辞書やら名言集をひろげて、僕が何をやっているかというと



好きなあの子にラヴレターを書いているのだ。




好きなあの子にラヴレターを・・・。




どうして、こんな事になっているか・・・・・・話は三日前にさかのぼる。



「なぁなぁ、トシって好きな奴いるの?」

何気なくコウジが聞いてきた。
話すネタが無いから、軽い気持ちで聞いたのだろう。


そして、僕も軽い気持ちで答えてしまった。


全ては徹夜明けの働かない頭が悪いのだ。


「ああ、一応」


隠すようなことでも無いが、コイツに言うようなことでも無かった。


「ほほう、んで?」

「んで??」


コウジが真剣な顔をして小さな声で囁いた。

「告ったのか?」


「・・・・・・いや・・・・・・」


バシッと力強く肩を叩き、ニヤッとコウジは笑った。


「告れ!」


「帰れ!」

僕は冷たくあしらった。
こいつは変にお節介だからきっと手助けしてやるとか言い出しそうで怖かったのだ。
できればさっさとこの事から手を引いて欲しかった。












が、コウジはニヤニヤ笑っている。



「好きな奴ってどんな奴なんだ?」

こいつ・・・帰るそぶりも怒るそぶりも見せないとは、やる気満々か?






仕方ない、弱点をつくか。





「お前の・・・」













奴の時間が止まった。












「あべぼぅ〜〜〜〜」




コウジが壊れた・・・。

コウジは妹を溺愛・・・というと語弊があるが、いわゆるシスコンだと思う。
とても大事にしていて、あの子はお前の一人娘か?と何度も突っ込んだことがある。


さて、帰るか。


コウジを置いて僕は帰ることにした。



大学を出て、駅までとぼとぼと歩き、これからの行く末を案じながら電車に揺られること40分。

もうすぐ期限が切れそうな定期券を改札に通し、駅を出た。


自転車で家まで向かっていると





「忍者かお前は?」





家の玄関の前にコウジがいた・・・




「妹が欲しかったら俺を倒してから行け!」
















「うわっ! ちょっと、止まれって!!」



そのまま轢こうと思い突進していったが、少し轢いたところでブレーキをかけてしまった。





やはり、小学校からの友達を轢くことは出来ない・・・・・・僕の人の良さがとても憎く感じた。






「いや、そんなボケいらない」

コウジは真面目な顔をして僕に訴えてきた。


「僕が好きなのはお前の妹じゃないからどいてくれ」










コウジの時間がまた止まった。









自転車を置き、家のかぎを開け中に入ろうとした時ようやくコウジの意識が戻った。


「マジですか・・・?」


「ああ・・・学校で言った事は冗談だ。さっさと帰れ」


家の扉を閉め、カギも閉めて靴を脱いでいた時、外から『エイドリアーン』と叫び声が聞えた。


次の日、キレイさっぱり忘れていてくれたら嬉しかったのだが・・・


実際、次の日もその次の日も忘れてくれていたのだが、今朝いきなり思い出したらしく

「まず、気持ちを伝えることが大事なんよ、それからさ、少しずつ告っていけばいいのさ」
と、わけのわからない事を言い
「ラヴレターなんか良いんじゃない? 言葉に出来ない想いをさ、文字にしてさ・・・」

長々と文句は続いたが覚えていない・・・

結局、放課後このような事態に陥っているから、少しはまともな事も言っていたのだろう。




それにしても・・・たくさん名言があるなぁ・・・


「結婚は人生の墓場だ・・・か・・・」

「何変なこと呟いてるんだよ! 結婚以前にお前は恋愛だろうが!!」

コウジが三国志12巻で突っ込みをいれる。

「結構、クサイのばっかりなんだよ、これ」

「どれどれ・・・あなたは花でわたしはそれに誘われた蜂・・・良いじゃん、これ」

「・・・中世のナンパ師っぽいぞ」

「あなたのようなじゃじゃ馬にクラをつけられるのは僕だけだ」
「うふふ、あなたに私を乗りこなせて?」

「こんな感じか?」

「そんな感じだな」

コウジが一人二役で図書館を舞台にしている間に僕は他の本を手にとった。


大切なのは、1押し 2 3顔

そうなのか? 世の中の恋愛って・・・・・・この本もダメだな。


はぁ〜

ため息がでた。



コウジが指を横に振りながら言う。

「ため息つくと幸せが逃げて行くぞ」





「お前とさえ出会わなければなぁ・・・」





「おっと、そろそろここも閉館時間だな」
コウジが胸から懐中時計を出した。

「僕、おうち帰る」

僕は早々と本を片付けはじめた。

「ヘイ、トシ。ユーはミーのハウスに来るのだよ」




「コウジ、あなたの言っている意味が解りません」




「フランクに言うならば、かわいい妹が一緒に考えてくれるらしいぞ」


え〜と・・・コウジ君?


「妹に言ったのか?」


「さっきメールした」

コウジは携帯の画面を見せた。


「女の子がラヴレター指南をしてくれるのは嬉しいが・・・」






何か哀しいな・・・






「んじゃ、いくぞ」

「ちょっと、片付けるの手伝ってくれよ」








午後七時、コウジの家に着いた。


「さあ、今夜仕上げるぞ!」


「えっ? 今夜??」


コウジが家の扉を開け手招きする。

「ほら、入れ」

久しぶりのコウジの家だ。

「お邪魔しま〜す」

「トシさんこんにちは〜」

声が奥から聞えてきた。

台所で制服エプロン姿の可愛らしい女の子が極上の笑顔を見せてくれた。

「こんにちは、ミホちゃん」

「さぁトシさん、女心の勉強しましょ!」




「え? 女心って・・・? 気持ちを伝えるだけじゃ??」



「相手の人の女心を鷲掴みするような言葉を一緒に考えてやってくれってお兄ちゃんに言われたんだけど・・・」

「ほぉ〜」

僕はコウジを睨む。

なんて恥ずかしいことを言ってくれるんだコイツは・・・

「今、お茶出すんでリビングに行ってて下さい」

「あ、おかまいなく〜」

コウジはニヤリと笑い
「レッツスタディ〜」
と言って僕の背中を押す。

「・・・お前」

「全てはユーの為でおじゃる」


重い気持ちでリビングの椅子に座る。

するとすぐに目の前にお茶が置かれた。

「ありがと」

ヒーローモノの絵の描かれた湯飲みでトウモロコシのお茶を飲む。


なに、いつものことだ。


「さぁ、みんなで考えよ〜」

コウジが大きな声と共に大量の便箋を出してきた。



今夜は永い戦いになりそうだ・・・
重い気持ちはますます重くなった。















六時間後

深夜一時、ようやくミホちゃんが寝るからお開きということになった。

宿題を渡され僕はようやく開放された。

コウジの家を出て、少し風の強い夜の道を自転車で走り抜けた。


色々聞かれてしまったな・・・


好きな子の名前、どうして好きになったか、今までの僕の恋愛、好きなタイプ
最近泣いた映画、学校の成績、恥ずかしかった話、怖かった話、痛かった話等など


僕は前カゴでバタバタと暴れている便箋を見た。
明日までに書いて来いだって?






出来るかこのやろ〜・・・








朝。


徹夜明けの重い頭を振りながら、とぼとぼと歩く。


結局こんなラヴレターになっちまったな・・・


ポケットから手紙を出す・・・


しばらく、ぼ〜っと見つめる。






字、汚いな・・・






『北浦 舞様へ』

すっ、と手紙に書かれた文字を撫でてみる。




びゅっ!



風が吹いた・・・


ひらひらと、さっきまで持っていた手紙が舞う。


このまま、どっかに飛んで行ってくれても、それはそれでいいかな?

そんなことを思っていると・・・







げっ!



好きなあの子、北浦 舞の足元に落ちてしまった・・・



やばい!やばい!  いや、やばくないか?








いや! やばい!!



あんな内容見せられない!!

うわ! 拾おうとしてるし!!






こんな下手なドラマみたいのような結末が待っていようとは夢にも思わなかった。


「トシ君、手紙落としたよ〜」

北浦 舞が今まさに拾おうとした時



びゅっ!


また、風が吹いた。



ほっ・・・


そのまま空の彼方に行ってくれ・・・


九死に一生を得た僕は大きな安堵のため息を吐いた後、大きく息を吸った。







ぶっ!!


そして勢いよく息を吐き出してしまった


宙を舞う手紙を鮮やかにキャッチした奴がいた。


「さすが忍者だな・・・」

コウジが汗を拭う身振りをし、さわやかな笑顔で走り寄って来る。

「これ宿題か?」

コウジが手紙を指差す

『ラヴレター』と言わず『宿題』と言ってくれるところに、奴の優しさを知った。


「ああ、宿題だ」

「そうか、危なかったな」

ニコッとコウジが微笑む。


ああ、確かに危なかった。もう少しで読まれるところだったよ。


「ほれ」

コウジが手紙を渡す。




「コ・・・・・コウジ・・・・?」


「危なかったな。もう少しで渡せなかったぞ?」


コウジは北浦 舞に手紙を渡した。






おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!







「さ、トシ」


「・・・?」

僕は声が出ない・・・


「返事は放課後に聞こうじゃないか」

「・・・」

僕は声が出ない・・・

そのままコウジに背中を押されながら大学に入っていった。


コイツに優しさなんて言葉は無い。









北浦 舞はどんな顔をしているだろう?

それも確かめられないまま、僕は教室に入った。



授業中、胸はドキドキ。


コウジはニヤニヤ。


授業中メールが来るし、休み時間は僕をからかう。


はぁ・・・


今夜は呑むか。










放課後、来て欲しくなかった放課後。


北浦 舞が廊下にいた。


廊下は人気が無い。
それもそのはず、僕が放課後になってもずっとぐずぐずしていて結構時間が経ってしまったからだ。

しかし、廊下で会う約束も何もしていない。
待っていてくれたのだろうか・・・?

淡い期待をよそに北浦 舞が困った表情を僕に見せる。


「あの・・・これ・・・」



「そうだよな、それが当たり前の反応だよな」


そうだよな・・・・・・



「ごめんな。自分の気持ちを伝えるのにバチッと合った言葉がさ・・・・・・僕が知ってる地球の言葉の中に無くてさ」

そう、そうなのだ。いくら本を漁ってもこの気持ちを伝えるだけの力がある言葉が無かったのだ。


「これでも、結構考えたんだけどな、図書館行ったり友達の妹に聞いたり」


はは、いい笑い話になりそうだ。


「本当はさ、今日、それを渡すつもりじゃなかったんだ。もっと、よく考えてさ、勉強してさ、字をもっとキレイにしてさ―
―」

ぼりぼりと頭を掻きながら下を向く。

「でも、やっぱ駄目だろうな・・・・・・いつまで経っても言葉、見つからないままだろうな」


ああ、情けない。

ラヴレターも書けないなんて・・・




白紙のラヴレターなんて聞いた事が無い。






「ありがとう」





え?




「これ、目に見えないけど・・・・・・たくさん素敵な事が書いてあるんだね?」

北浦 舞


「ありがとう」

ありがとう

「トシ君、こんな私だけど――」



風が吹いた。



とても心地のよい風だ。











「うううぅ、トシィ〜」

「泣くな」

「だってさぁ、ミホが俺に手紙をくれたんだよ〜」

「よかったなぁ〜」

その日の夜、コウジが呑みに誘ってくれた。
なんでも、カバンの中にミホちゃんからの手紙が入っていて・・・・・・




今、このように泣いている。

「いつも、私のことを見守っててくれる大好きなお兄ちゃんって・・・・・・俺のことだよなぁ?」

「ああ、そうだよ」

ストーカーに近い位見守っているよな・・・・・・


「いつも、私の料理を美味しい美味しいって食べてくれる大好きなお兄ちゃんって・・・・・・俺のことだよなぁ?」

「ああ、そうだよ」

ミホちゃんの作ったハンバーグを食って次の日、腹壊していたよな・・・・・・


「いつも、私のことを笑わせてくれる大好きなお兄ちゃんって――」

「ああ、お前のことだよ」

階段から落ちて骨を折った時も笑っていたよな・・・



「いつか、恋愛して素敵な人を見つけたら、真っ先にお兄ちゃんに紹介するね」


「・・・」


「素敵な人って・・・」











「ああ、お前じゃぁ・・・無いな」










「拷問だよぉぉぉミホ〜」




コウジは机に突っ伏して泣いている。

「一人娘が嫁に行ったような光景だな」



「お兄ちゃん、彼氏を●●●ちゃうかもしれないよ〜〜〜」


ホント・・・・・・お前の恋愛はどうなるんだろうな?




こうして、波乱の一日が終わった。
コウジの波乱はこれからも続きそうだが・・・・・・







後日、手紙が来た。

キレイな字で一行目はこう書かれていた。
「あなたの手紙は、私に白紙の紙と春の暖かな風を一緒に届けてくれました」





終わり。


どうでしょうね?

OKですかねぇ・・・?

「手紙」ってテーマは難しいよぅ〜

いや、楽なテーマも無いけど・・・・・・
説明or文字


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