夫婦喧嘩は猫も杓子もの巻


全ては自己満足の為。
全ては欲望。
自分の為に生きてゆく。

「あ?」

そうだろ?

「ああ、まぁ、そういう言い方もあるな」

ルイズベストは新聞広告を見ながら呟いた。
「面白そうだな・・・これ」



ぎっ


教会の扉が開く。

「お姉ちゃん、きっとダメだよ〜」
「うるさいわねぇ、聞くだけ聞いてみればいいじゃない!」
男の子と女の子、二人の子供がやってきた。
男の子は少し気の弱そうな感じで、逆に女の子は少しつり目のせいか、気の強そうな印象を受ける。
年は二人とも10歳位である。
「ナマステ」
ルイズベストは手を合わせ頭を下げた。

「教会で聞く事じゃないよ〜」
「そこらの相談所に行ったらお金取られるでしょ!教会ならまだ安心よ」
子供たちはルイズベストに気付いていなかった。

「・・・・・」
ルイズベストは固まっている。

「お姉ちゃんと僕のお金合わせればなんとか・・・」
「お金は有効に使うものなのよ!」
子供たちの話は終わらない。

「どうした迷える子羊達よ」
ルイズベストは何事も無かったように声をかけた。

「あ、神父様・・・・・・あの〜・・・・・・」
男の子は下を向いてもじもじしている。
「うちのお父さんとお母さんのケンカに困ってるんです!」
女の子が泣きそうな目でルイズベストを見つめた。

「・・・・・・、うちは何でも屋ではないぞ」
ルイズベスト恐ろしい奴である。

女の子は目を潤ませてじっとルイズベストの顔を見ている。
ルイズベストはその目をじっと見ている。


少しの沈黙が流れた。




「お姉ちゃん、帰ろう」
小さな声で男の子が女の子の服の裾をつかんで引っ張っている。




「あ〜! 何て神父なの!!
 こんないたいけな少女の涙を溜めた目を見ても何も思わないの!!!」
女の子は男の子の手を払って文句を言った。


・・・・・・


「何とも思わないが・・・話位なら聞いてやるぞ」
ため息一つ、ルイズベストはしぶしぶ話を聞く事にした。






「まず自己紹介ね、私はエリザ7歳、この子は弟のジミーで5歳」

「ふむふむ、ジミーは5歳なのか?」

「・・・はい」
ジミーはうつむいている。

「で、親のケンカに困ってるんだっけ?ジミー」

「・・・はい」

「ケンカをやめてほしいかい?ジミー」

「・・・はい」
ジミーはうつむきながら答えた。

「なぁ、ジミー・・・」
言いかけたところで、エリザが割って入った。

「ちょっと神父様、ジミーばっかりに答えさせなくてもいいじゃないですか!」
と、ルイズベストはエリザの顔の目前に手をかざした。
エリザの勢いが止まる。

「なぁ、ジミー、俺の目を見て答えてくれないか?
 さっきから姉さんばかりが喋っていて、ジミーの思いが伝わってこないんだ」

「だから、ジミーは!」

ジミーはスッと顔をあげた。

「し、神父様。・・・相談に乗ってもらえますか?」
ルイズベストはジミーの目を見て言った。




「おう、やってみよう」




ルイズベストは温かいココアを出し、話を聞いた。




「う〜ん、何でケンカしているかハッキリしないことにはなぁ・・・」

まだ、この位の歳じゃよく分からないのも無理は無いんじゃないのか?

「まぁ、そうかもなぁ」

「何がそうかもなの、神父様?」
エリザが不思議そうに聞く。

「いや、別に。・・・ところで『神父様』はやめないか?」

「じゃぁ、・・・・・・ルイね」

「・・・まぁ、それでもいいが、ルイズベストって全部言ってくれても」

「ねぇ、ルイ、どうすればケンカ止まるかなぁ?」
エリザはおかまいなしのようだ。

「ふぅ・・・そうだなぁ」
ルイズベストは上を眺めて考えている。

案を出してやろうか?

「いや、いい。」

エリザ達は不思議そうな顔をしてルイズベストを見ている。

「そうだなぁ・・・少しの間俺に協力できるか?」

「え?なにするの?」
エリザ達は不安そうにルイズベストを見ている。










「お前等をさらう」




「は?」
エリザとジミーの顔にはクエッションマークがありありと出ている。


「二人に共通の敵を作るんだよ。そして二人が協力し合い、解決し、絆がより確固たるものに」










沈黙が流れる




「それよ!」
エリザが叫んだ。

「グッドなアイデアだわルイ! 協力し合って敵をぶちのめすのね!」

「・・・え? 俺ぶちのめされるのか?」
ルイズベストが不安そうな顔をしているが、エリザは目もくれない。

「ジミー、乗る?乗らない?さぁどっち!
エリザはNOとは言わせない迫力でジミーを見る。

「・・・乗る」
ポツリと恐々と返事をした瞬間


ガシッ


とジミーの手をひっぱり
「すぐ戻るわ!」
と言い教会を出ていった。


「・・・不安だ」
ルイズベストは呟いた。









教会の入り口で待っていると30分程で二人は戻ってきた。


大きなカバンを持って。


「家に帰ったのか?」

「着替えとか取って来たり書置きしてきたり」

「・・・書置き?」

「『子供は預かった』って書いたの」
エリザが得意げに言った。

「・・・あのなぁ・・・」

「大丈夫!ちゃんとそれっぽく書いて来たから!」
グッと親指を立てて笑顔を見せた。

「・・・僕は止めたんだけど・・・」
ジミーは済まなそうにうつむいている

「あのなぁ、エリザ、多分ばれるぞ」

「え!? 何で!!」
エリザは目を丸くしている。

「カバンと着替えが無くなって、書置きがあったら家出、もしくはイタズラに思えるだろ?」






「・・・あうぅ」
エリザは脱力し、座り込んだ。

「返しに行こう、お姉ちゃん」
ジミーがカバンを持つ。

スッとエリザが立ちあがった。


「よしっ!」


二人は荷物などを戻しに走って行った。

はぁ・・・、とため息をルイズベストは吐いた。

ルイズベストは二人の後ろ姿をずっと見ていた。


30分程で息を切らせながら二人は戻ってきた。


「さて、これからどうするの?ルイ」

「夕方まで待つ」
と言って教会の中に二人を入れて、静かに扉を閉めた。


「夕方になったら何するの?」
エリザはわくわくしながら聞いてきた。

「電話」
ルイズベストはそっけなく答える。

「はは〜ん、子供は預かった、返してほしければ・・・ってやつね?」
エリザは声色まで変えて電話のまねをする。

「警察には知らせないようにしてもらって、それから・・・」
ルイズベストはトコトコと奥の椅子に向かって歩き出した。

「それから?」
エリザは目を輝かせついてくる。

「何してもらうかわかるか?」
と、エリザの顔を見る。

「分からないわよ!」
エリザがつっこむ。

「最初の主旨を忘れてないかエリザ・・・ジミーは分かるよな?」
と、ジミーの顔を見る。

「・・・二人に力を合わせて何かやってもらう・・・」
ジミーは小さく答えた。

「おお、大正解! しっかりしているなジミーは」
と、ジミーの頭をなでながらエリザを見る。

「何よ! その目は!!」
エリザはプゥとふくれた。

「ははははは、君等は良いコンビだなぁと思っただけさ」
ルイズベストは笑いながらエリザの頭もなでた。

「さてさて、本題だ。二人には何してもらおうか?」
ルイズベストは椅子に腰掛けた。

「う〜ん」
と考えながら二人も腰掛けた。


日が落ち、橙と紺が混じり、辺りにはゆったりとした空気が流れている。


「じゃ、電話するぞ?」
ルイズベストは受話器を取りダイヤルする。

「・・・」
二人は黙って見ている。

ルイズベストの顔つきが少し変わる。

「子供の帰りが遅いと思わないか?」
ルイズベストは低く重い声で言った。

「今は無事だが、あんた達次第だな・・・」

「警察には知らせない方が良い・・・この意味は判るな?」

「また、電話する」

カタン、と受話器を置く。

「さて、出かけてくる、ちゃんと待ってるんだぞ」

「見つからないように注意してね」
エリザがルイズベストに言う。

「・・・俺は見つかっても良いの、見つかっちゃいけないのはそっちだろ?」
ルイズベストは苦笑いをしてエリザを見る。

「そっか、犯人とか分かってないんだから、見つかってもいいのか・・・」
エリザは考え込んでいる。

「様子見るだけだし、変な事するわけじゃないから・・・安心しな」
そう言って、教会を出る。



ジミーは不安そうな顔をしている。
エリザは教会の中をうろうろしている。

二人とも不安を隠せないでいた。



ルイズベストは何食わぬ顔で様子を見に、家の近くまで行った。

タバコをくわえ、耳を澄まし、ただじっと空を見ていた。

人もそれなりに通る所なので、軽く挨拶をしながらではあったが、しっかりと様子をうかがっていた。

大丈夫そうだな?

「ちょっと待て、話しかけるな」
ルイズベストは、家の窓から顔を出して辺りを見渡す二人の母親マリンに何気なく挨拶した。

「こんばんは、マリン。顔色が悪いけど大丈夫かい?」

マリンの顔色はとても青ざめていた。

「ああ、神父様、何でもございませんわ」
と、マリン夫人は窓を閉めようとした。

「何か困っているのか? 相談に乗るぜ?」
ルイズベストはマリンを呼びとめた。

マリンは少し考え、辺りを見渡し、誰も見ていないことを確認した後
キッチンの窓から入るようルイズベストに言った。
人が通れるかどうか微妙な大きさの窓を見てルイズベストは苦笑いを浮かべた。

どうにか家の中に入ることが出来たルイズベストは部屋をざっと見渡した。
家中カーテンが閉められ、少し息苦しさを感じた。
暖炉の上には幾つかの盾や賞状、トロフィーが飾ってあった。
マリンの夫、テッドはとても慌てた様子で家の中をうろうろとしていた。

「ルイズベストさんどうしたら良いのでしょう?」
テッドはひどく困惑した表情だった。

ルイズベストは罪の意識を感じた様子だったが
「何かあったのか?」
と真剣な面持ちで聞いた。

「実は・・・」
マリンが青ざめた顔のまま、説明した。

ルイズベストは何も知らないような顔をして聞いている。

「お前がしっかりしていないから!」
テッドがマリンに向かって怒鳴った。

「仕事があるんだから一日中見られないわよ!」
マリンはテッドに怒鳴り返した。

「育児に関してはお前に任せていただろ!」
テッドが怒鳴る。

「ちゃんとやっていたわよ! それに育児は二人でするものよ!」
マリンが怒鳴り返す。

「俺には仕事があるんだよ!」
テッドが怒鳴る。

「私にだってあるわよ!」
マリンが怒鳴り返す。

夫妻の怒鳴り合いはしばらく続いた。

ルイズベストは多少うんざりしながら、
「二人とも、こんな事している場合では、ないんじゃないか?」
と夫妻を止める。

子供が居なくなって、不安と焦りと怒りが入り混じった空間にあまり居たいとは思うはずも無く
「犯人の言った通り、警察には知らせない方が良いな。ちゃんと言う事聞けば子供は安全さ」
と言って、家から出ようとする。

「神父様! どこに行こうとしてるんですか!」
マリンが叫ぶ。

「帰ろうかと・・・大丈夫、誰にも言わないから」
と言い、出て行こうとする。

「ダメ、神父様! 犯人に見張られているかもしれないから、ちゃんとキッチンの窓から出て行ってください」
マリンはキッチンの、人が通れるかどうか微妙な大きさの窓を指した。

「・・・またか」
ルイズベストは苦笑いを浮かべた。






「はぁ、疲れた」




教会に戻り、二人に状況を説明した。

「大丈夫なのルイ?」
エリザが不安そうに聞く。

「・・・」
ジミーは無言のまま聞く。

「これからが大事だな」
ルイズベストは難しそうに言い、電話に向かう。

受話器を持ち、軽く息を吐き、ダイヤルする。

「あ、ジミー、そこの机の上にある新聞の広告持って来てくれないか?」
ルイズベストは奥の方にある机を指した。

ジミーは小走りで広告を取りに行き、小走りで戻ってきた。


「俺だ、これから言う事をちゃんと聞け。いいか?」

「安心しろ、子供は無事だ。・・・声?」

ルイズベストは広告を持って来たジミーに
「少し話せ」
と言い、広告と受話器を交換した。
ジミーは小さくうなずく。

「僕もお姉ちゃんも大丈夫。安心して」

ジミーの頭をなで、ルイズベストはジミーから受話器を取り、話を続けた。

「安心しろ。言う事を聞けば無事返してやる。・・・よく聞けよ」


新聞広告をチラッと見て。


「三日後の『浜辺じゃないけど夫婦でビーチバレーボール大会』に出場して、優勝しろ」

「文句を言うなら、それまでだ。残念だな」

「じゃぁ、楽しみにしている」

カタン、と受話器を置く。

ジミーは少し涙を溜めている。

エリザは体を少し震わせている。







沈黙が少し流れる。









「お泊まりだぁ!」
エリザがはしゃぐ。




「夢にまで見たお泊まりだよ、ジミー!」
エリザはジミーの手を取りはしゃいでいる。

「う、うん」
ジミーは苦笑いを浮かべた。


ルイズベストと夫妻の魔の3日間が始まった。




このままだと結構長くなってしまうので、今回はここまで

次回更新を待っていてください。

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